清算価値の評価にあたり、以下の前提を置く。 第一に、清算方法は破産法に基づく任意売却を想定する。 民事再生や会社更生ではなく、事業継続を前提としない「解体清算」シナリオである。 第二に、不動産・設備の売却市場は小樽市周辺の二次市場であり、 130床規模の医療特殊建築物に対する需要は限定的である。 第三に、役員貸付金(大川院長個人への法人貸付2.38億円)は実質的に回収不能として扱う。 第四に、売却に要する時間は6〜18ヶ月と想定し、その間の事業停止コストは試算に含めない(保守的見積り)。
| 項目 | 帳簿価格 | 回収率仮定 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 土地 | 0.80億円 | 80% | 小樽市内立地・路線価ベース |
| 建物・構築物 | 2.80億円 | 30% | 医療特殊建築・築年数・転用困難 |
| 医療機器・設備 | 1.60億円 | 20% | 専門機器・中古市場は薄い |
| 流動資産(売掛金・現金等) | 0.30億円 | 80% | 診療報酬未収金・現預金 |
| 役員貸付金(院長個人) | 2.38億円 | 0% | 無担保・個人債務・回収事実上不能 |
| その他資産(保険・保証金等) | 0.90億円 | 20% | 解約返戻・雑資産 |
| 合計 | 8.78億円 | — | — |
上記回収率を適用し、資産別の清算価値を試算すると以下の通りとなる。 役員貸付金2.38億円は帳簿上の資産でありながら清算価値ゼロとなる点が、 本案件における構造的な特徴である。 すなわち、帳簿資産の27%(2.38/8.78億)が事実上の不良資産として計上されている。
| 資産区分 | 帳簿価格 | 回収率 | 清算価値 |
|---|---|---|---|
| 土地 | 0.80億円 | 80% | 0.64億円 |
| 建物・構築物 | 2.80億円 | 30% | 0.84億円 |
| 不動産 小計 | 3.60億円 | — | 1.48億円 |
| 医療機器・設備 | 1.60億円 | 20% | 0.32億円 |
| 流動資産 | 0.30億円 | 80% | 0.24億円 |
| 役員貸付金 | 2.38億円 | 0% | 0.00億円 |
| その他資産 | 0.90億円 | 20% | 0.18億円 |
| 清算価値 総計 | 8.78億円 | — | 2.22億円 |
破産清算においては、一般債権者(銀行)への配当に先立って、 以下の費用・債権が最優先で弁済される。 特に従業員155名分の未払賃金・退職給付は財団債権として最上位に位置づけられ、 担保権行使後の残余資産をほぼ吸収する。
| 優先項目 | 優先順位 | 推計額 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 清算費用 弁護士・管財人・公告・登記 |
財団費用(最優先) | ▲0.25億円 | 弁護士費用・裁判所費用等 |
| 未払賃金・退職給付 従業員155名・3ヶ月分賃金+退職金 |
財団債権(第1位) | ▲0.50億円 | 平均月給30万×155名×3M+退職金概算 |
| 税金・社会保険料 固定資産税・事業税・社会保険滞納 |
優先的破産債権 | ▲0.15億円 | 滞納推定額・固定資産税等 |
| 優先弁済 合計 | — | ▲0.90億円 | — |
清算価値総計2.22億円から優先弁済0.90億円を控除すると、 一般債権者(銀行)への配当原資は1.32億円が上限となる。 ただし、後述の通り銀行は担保権(根抵当権)を別除権として行使するため、 この上限額がそのまま銀行回収額とはならない。
TDB調査によれば北洋銀行は南小樽病院の不動産に対し根抵当権(極度額2億円)を設定している。 担保権者は破産手続きの外で担保物件を任意売却できる(別除権)。 これにより銀行は清算価値1.48億円相当の不動産から優先的に回収する。
| 回収ルート | 計算根拠 | 回収額 |
|---|---|---|
| ① 担保権行使(別除権) 土地・建物の任意売却 |
不動産清算価値 1.48億 ▲ 担保権行使費用 0.10億 |
1.38億円 |
| ② 一般破産配当(無担保部分) 残余資産からの按分配当 |
残余資産 0.74億 ▲ 優先弁済 0.90億 → 配当原資 ▲0.16億(枯渇) |
0.00億円 |
| 清算シナリオ 銀行回収合計 | (5.21億の元本に対して) | 1.38億円 |
上記の清算価値と、鳳應会スポンサーによる私的整理条件(3.00億円引継ぎ返済)を対比する。 比較は銀行の経済的合理性という単一の軸で行う。
| 比較項目 | 清算シナリオ | 私的整理シナリオ |
|---|---|---|
| 銀行回収額 | 1.38億円 | 3.00億円 |
| 元本回収率 | 26.5% | 57.6% |
| 回収完了までの期間 | 18〜36ヶ月(不確実) | 約3〜4ヶ月 |
| 地域医療への影響 | 病院閉鎖・地域崩壊 | 継続・再生 |
| 金融機関のレピュテーション | 地域批判リスク大 | 地域貢献として評価 |
| 院長の個人保証処理 | 行使・紛争リスク | 合意・円滑 |
| 総合評価 | × 銀行不利 | ○ 銀行有利 |
清算シナリオでは北洋銀行の13年間の融資損益累計(+3.02億円)がほぼ失われる。 これに対し私的整理では3.00億円を短期回収した上で10億円の新規融資機会を得る。 銀行の意思決定者が合理的であれば、私的整理を選択しない理由はない。
私的整理の実行には、法的拘束力のある合意を複数形成する必要があり、 ここがお抱え弁護士が最も力を発揮する局面である。 以下6つの関与領域を整理する。
なお、本件では清算価値試算書そのものに弁護士が「作成関与」の形で署名することが望ましい。 これにより銀行側の審査担当者が社内稟議の際に「第三者専門家の評価」として使用できる。 費用対効果の高い弁護士関与の場面は上記①②が最優先であり、 次いで③④と進める2段階起用も合理的な選択肢となる。
清算シナリオにおける北洋銀行の回収額は1.38億円(元本の26.5%)にとどまる。 これに対し鳳應会スポンサーによる私的整理では3.00億円(57.6%)を短期回収できる。
差額+1.62億円が、銀行にとっての「私的整理を選ぶ経済的理由」である。 本試算書をベースに弁護士が私的整理合意書・債権放棄合意書を起草することで、 交渉は法的に有効な土俵に乗る。弁護士関与こそが稟議を通す鍵となる。
※1 本試算書の数値はTDB信用調査(2026年7月14日付)およびDDなしの帳簿推計に基づく。正式なDDにより各数値は変動する。
※2 回収率(ヘアカット率)は北海道・小樽市における医療施設の過去売却事例および業界標準値を参照した推定値である。
※3 役員貸付金2.38億円の課税処理については、税理士との別途協議を要する。
※4 社外秘 取扱厳重注意 — 鳳應会グループ 内部資料 / 2026-07-17